夏の風物詩といえばセミやカエルの鳴き声ですが、秋の風物詩といえば虫の鳴き声ではないでしょうか?
静かな夜に聞こえる虫の声に癒やされる、秋が来たなあと感じる、虫の鳴き声は賑やかであるもののうるさいと感じる人は少なく、むしろ日本人の感性として心地よいと感じる人が多いようです。
古くは「万葉集」「源氏物語」にも鳴く虫の記述があります。
世界的に見るとこのように虫の音を「声」ととらえて心地よく感じるのは日本人とポリネシア人だけのようです。
日本人は虫の声を左脳(言語脳)で捉えているのに対して西洋人は右脳(音楽脳)で捉えているらしいのです。
それで西洋人は虫の鳴き声がよく聞こえないか、または雑音と感じてしまうらしいのです。これは話す言語の構造の違いとも言われています。
虫の鳴き声が唱歌になっているという文化
「あれ松虫が 鳴いている」で始まる「虫のこえ」はよく知られている日本の唱歌です。
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あれ松虫が 鳴いている
ちんちろ ちんちろ ちんちろりん
あれ鈴虫も 鳴き出した
りんりんりんりん りいんりん
秋の夜長を 鳴き通す
ああおもしろい 虫のこえ
きりきりきりきり こおろぎや(きりぎりす)
がちゃがちゃ がちゃがちゃ くつわ虫
あとから馬おい おいついて
ちょんちょんちょんちょん すいっちょん
秋の夜長を 鳴き通す
ああおもしろい 虫のこえ
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この歌は1910年に登場し、現在でも小学校で習う唱歌として歌い継がれています。
この歌、実は歌詞の「きりぎりす」のところが「こうろぎや」に変えられた経緯があります。
「きりぎりす」はコオロギを表す古語であり、「きりきりきりきり」もコオロギの鳴き声であることから「こうろぎや」に変えられたのです。1932年のことでした。
それで「きりきりきりきり きりぎりす」の韻は失われることになりました。
でもそもそもコオロギとキリギリスは違う昆虫のはずですよね。
コオロギは黒褐色、キリギリスはバッタのような緑色をしています。
しかし昔は様々な文献からコオロギのことをキリギリスと呼んでいたようなのです。
ではキリギリスはなんと呼ばれていたのでしょうか?「ハタオリ」と呼ばれていたそうです。
唱歌「虫のこえ」で、マツムシは「ちんちろ ちんちろ ちんちろりん」、鈴虫は「りんりんりんりん りいんりん」、コオロギは「きりきりきりきり」、クツワムシは「がちゃがちゃ がちゃがちゃ」、ウマオイは「ちょんちょんちょんちょん すいっちょん」と鳴くという歌詞になっています。
実は虫の鳴き声を文字にするのは難しく、人によって聞こえ方、表現の仕方が異なります。
この唱歌の中でもメロディーに乗せるためにデフォルメされた部分はあると思いますが歌詞の内容は決して実際の虫の鳴き声と遠くはないと思います。
コオロギの鳴き声は種類によっても異なるのですが一般的にはこんな感じではないかと思います。
https://www.youtube.com/watch?v=aoxOFeUPNug
文字で表すと「キリキリキリキリ」「コロコロコロコロ」といった感じになります。
秋の虫の中でも鳴き声がほとんど知られていないキリギリス
唱歌「虫のこえ」でキリギリスの鳴き声は実はコオロギだったということを取り上げました。
ではキリギリスはどんな鳴き声なのでしょうか?あれ、ちょっと鳴き声が思い浮かばないかもしれませんね。
https://www.youtube.com/watch?v=n5MgJIDoMyo
ここでは「ギィーーッ」
https://www.youtube.com/watch?v=NeS0CuYyVNk
また「ギィーーッ、チョン」というものです。
あ、これは聞いたことがある、という方も多いことでしょう。
秋の虫の鳴き声は多種多様!「チッチッ」と鳴く虫の正体とは
「チッチッ」と鳴く虫がいます。この虫の正体は・・
https://www.youtube.com/watch?v=ke8vbzpN-9M
「カネタタキ」というバッタの仲間です。鳴き声が鉦(かね)を叩く音に似ていることからカネタタキという名称がつきました。カネタタキは夜行性の小さな虫で都市部にも多く生息し街路樹や庭木にもいます。
夜に大合唱してうるさいのと、何かの拍子に家の中に入って鳴き出すので迷惑がられている虫ですが人畜無害です。
オス同士が近づくと鳴き声が激しくなります。
虫は秋になぜ鳴くの?
秋の風物詩とも言える虫の鳴き声ですが、なぜ秋に鳴くのでしょうか?
それは秋が繁殖の季節だからです。
これらの虫たちは冬を卵で過ごし春に孵化して夏の終わりまでには成虫になります。繁殖の時期にオスは求愛行動を取ります。そのときに鳴き声を出すというわけです。
鳴くのは殆どの虫の場合オスになります。他にも「縄張り争い」「オス同士のケンカ」でも鳴きます。
またそれぞれに鳴き方も異なるということがわかってきています。
鳴けば天敵である動物や昆虫に見つかりやすくなるので捕食されてしまう危険もあるのですが、それでも自らの繁殖のためにあえて危険を顧みず鳴いているのです。
なんだか涙ぐましい努力と言えますね。
「虫が鳴く」といいますが、実際に虫が声帯を振るわせて鳴いているわけではなく、翅(はね)や脚を擦り合わせて音を出しています。
鳴く虫の王様はスズムシ
鳴く虫の代表格といえばスズムシではないでしょうか?
私もかつて家で飼っていたことがありました。
飼育は比較的容易で、プラスチックの飼育容器に園芸店で入手できる土を入れておけば産卵し、翌年に幼虫が孵化して成長し、秋にはまた鳴き声を楽しむことができます。
秋の夜長に「リーン、リーン」と鳴く様子はとても耳に心地よく、涼しさを感じます。